2011年5月17日火曜日

電力供給危機は実在した!その2

2.計画停電の是非

一瞬にして供給力の3分の1を失うというのはストックの出来ない電力供給においては致命傷である。こうして改めて数字で見せられると、その被害が尋常ならざるものであったことを再認識させられる。

この事態にいかな東電でも果たして冷静でいられたであろうか。東電の強かさ、傲慢さには日頃呆れている筆者でも、この事態で陰謀を巡らすほどの余裕が東電 にあったとは思えない。そのあたりの混乱振りは下の表にある3/11から数日間の東電の需要、供給力予測に如実に現れている。もっとも、やや不自然な動き があることも確かで、特に計画停電の前日(3/13)に発表した14日の予想需要が急増し、供給力がガクッと落ちている。いかにも計画停電の大義名分を作 り出した感じである。この表は東電が毎日発表している翌日の供給力と需要予測、そして需要実績をプロットしたものである。すでにツイッター (@suginakkuri)で5月10日に指摘したように、この東電発表の供給力には注意を要する。これは東電が今使えるマックスの供給力を示している わけではなく、明日の需要予測に基づき、明日のために用意する供給力という意味である。基礎的、長期的な供給力とは直接関係ない。したがって、電力消費が この供給力に対して、「今90%を超えましたのでお気を付け下さい。」といっても、東電の需要予測が甘かっただけであまり意味はない。もちろんその日の消 費が予想以上に増え、供給力の上限に達してしまえば、停電ということになりうるが、常に予備力を用意しているので、当初の数日間を除けば、これまで一度も そういう事態に至ったことはない。そのあたりは下の表で見れば明らかである。

話が逸れてしまったが、供給力喪失に話を戻そう。おそらく震災前には供給力がさほど逼迫していなかったと思われるので、揚水発電はほとんど用意していな かったのではなかろうか。当然ながら揚水発電のためにはあらかじめ夜間に揚水しておかなければならず、緊急時には間に合わない。さらに供給力を大きく失った状況では夜間電力も余力がなく、揚水が当てに出来ないのは明らかである。となると一瞬にして供給力 の1/3が失われたとなると、これほど膨大な余力をすぐに用意するのは不可能であり、状況把握もままならない中で、東電が計画停電に飛びつきたくなるのも 無理からぬところであろう。その点ではネットを初めとして盛んに言われた東電陰謀説は当たらないというのが私の結論である。もちろん私より正確なデータを お持ちの方も多いと思うので、ぜひ反論をお願いしたい。

だが、そうした供給危機状態はごく当初の数日間だけである。詳細はすでに「東電供給力の一考察」で述べてあるので、そちらをお読みいただきたい。
さらに計画停電の手法自体にはきわめて問題な点が多い。計画停電については、すでに様々な方が批判を展開しているので、ここでは詳細に論ずるつもりはないが、重要なポイントをいくつか指摘しておきたい。

まず、現状説明がまったくなされず、いきなり 震災の翌日(3/12)午前に計画停電を持ち出したこと、しかも発表した翌日から実施するとした点(13日が日曜日だったこともあって、さすがに1日延ば したが)は、協力を求める前に問答無用の強権発動といったやり方でいかにも拙速であった。

一番の問題は週明けにいきなり鉄道に対する配電をストップしたため、通勤、通学を初め交通網に大混乱をもたらした点である。なぜこのように鉄道を標的にし たのか大きな謎である。なぜなら鉄道関連の電力消費量は僅か2.2%(2010年度東電)に過ぎず、実質的効果が乏しいからである。意地悪く勘ぐれば、鉄 道分野は最も早く、かつ大規模に九電力離れして、電力を自給している業界であり、お得意さんではない点を指摘せざるを得ない。まさか鉄道の弱点である踏切 (ここだけはなぜか電力に依存)を狙い撃ちにしたわけではないと思うが。一方、経団連などの仲間であるいわゆる大口電力産業には、「需給調整契約」に基づ き、供給抑制で協力を要請できるにもかかわらず、社会的影響が大きいという理由で要請しなかった。さらに計画停電の対象からはずしているケースまであると いう(このあたりは河野太郎氏のブログ「ごまめの歯ぎしり」に詳しい。)
これに加え、東京都内はほとんど計画停電の対象にならず、もっぱら地方に停電を押し付けるという不公平感も納得できない点である。これは原発のリスクを福島に負わせ、自分は利益だけを享受しようという都市のエゴと無関係ではあるまい。

さらにこのような国民生活に大きな影響を及ぼす計画停電が、政府主導ではなく、完全に東電主導で行われている点である。東電は官僚以上に官僚的で、政府はまったく機能していない。

最後にもう一言。国民にとって原発停止のショックが大きかったせいか、あるいは東電の供給危機の脅しが効いたせいか、計画停電以降予想以上の節電効果を示 した。しかも、火力発電所の復旧、揚水発電の整備も進んで早い時期に計画停電の必要性はなくなっていたはずである。その点はネットで多く指摘されており、 その通りだと思う。それにもかかわらず、計画停電はずるずると引き延ばされ、実質3月28日(月)まで2週間に亘って続けられた。始めた時はいかにも唐突 であったが、終わりはいかにも蛇足であった。しかもその間も毎日の需要予測値と供給力の数値を一本で示すだけで、その根拠となるデータを明らかにするどこ ろか、ご丁寧にも都合の悪いデータをホームページから削除するという有様である。

以上で東電の供給力研究は一先ず区切りとしたい。しかし、この夏に向かって、電力各社がどんな戦略を打ち出してくるか、これからも注意深く見守り、要求すべきことはしっかり要求し、この機会を電力業界の抜本的改革の足掛かりにしていかねばならないと思う。

(完)                           110517一部加筆。


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