2011年5月3日火曜日

東電供給力の一考察 その5

5.夏の需給見通し

これまで見てきたように、現状においては需要に対して供給力は大分余裕が出てきていると見られる。これは火力発電所の復旧、定期検査からの復帰、揚水発電の確保、他社受電の進展などの貢献があるが、節電効果も大きいように思う。平日においては前年同日と比較してピーク時1000万kw近く需要が下回っている日が多いのは、消費者の節電意識に依る所が多いと見ていいだろう。東電も節電の効果で「各日の最大電力は、前年に比べ約20%下回って推移」していると認めている。

一方、供給サイドから見た今後の見通しはどうか、次に見ていきたい。

東電は3月25日のプレスリリースで、7月末供給力見通しを発表している。
これによると7月末の供給力は、震災によって停止した全火力の復旧(760万kw)、長期計画停止中の横須賀火力3,4号機、G1,G2号の運転再開(90万kw)、定期点検からの復帰(370万kw)、ガスタービン等の設置(40万kw)、その他 ▲260万kw(大気温上昇による既設火力の夏期出力減少分)を加味し、4650万kwとしている。揚水発電はこの数値には含まれていないが、3月24日現在の供給力(3850万kw)には200万kw織り込んでいる。

それに加え東電は、4月15日プレスリリース「今夏の需給見通しと対策について(第2報)」で、次のような追加対策を織り込んだ新たな見通しを発表した。(ただし下の東電情報には数字の誤りと見られる箇所が散見されるため筆者の推定で訂正してある。)

(1)千葉火力、袖ヶ浦火力敷地内などにガスタービン等の設置(7月+20万kw、8月+60万kw)   
(2)震災停止・定期点検からの復帰(110万kw)
鹿島共同火力1,3,4号機、常磐共同火力8,9号機
(3)その他 20万kw(7月)、▲190万kw(8月)(7月末から8月末への供給力減少は柏崎刈羽1号機および7号機の定検停止によるもの。)   
(4)揚水発電の活用(400万kw)

<今夏の需給見通し>  

                  7月末   8月末  3/25時点での7月末
需要(発電端1日最大)   5,500        5,500      5,500
  供給力                   5,200        5,070           4,650*
  予備力              ▲300       ▲430          ▲850
                                                                    *揚水発電を含まず。

さらに東電の藤本孝副社長は4月20日になってさらに夏の電力供給力を最大5500万kw程度に引き上げることを目指す意向を表明した。また東電は、稼働中の柏崎刈羽1、7号機(110万、135.6万kw)で8月に予定している定期点検を「電力確保のため」に延期することも示唆しているといわれる。この柏崎原発の定検延期は東電にとって頭の痛い問題である。定検に入れば供給力確保が一層難しくなるだけでなく、反原発の高まりの中で定検後再開出来なくなる恐れがあるだけでなく、大口需要家の自家発電促進に拍車が掛かる可能性も高い。逆に無事夏を乗り切れば原発不要論にさらに根拠を与えかねない。一方、安易な定検延期は法律上も、安全上も批判は免れない。

また5500万kw確保の根拠が示されていないので、プラス300万kwの中身は不明である。先に私案で示したように、600万kwを揚水で確保できるとすれば、あと200万kwは揚水で賄える。少なく見積もって300万kwの半分を揚水で手当てするとして、残りは150万kwなので、それほど難しくはないように思える。思いつくまま候補を列挙してみると次のようになる。

・横須賀火力5~8号機(35万kw×4機計140万kw)の再開
・大井火力発電所内にガスタービン約21万kw(7月までに運転開始)
・常磐共同火力7号機(25万kw)復旧 12.3万kw
・群馬・高浜発電所(複合ごみ発電)2万kw
・IPP復旧分 34.2万kw(JX日鉱日石エネルギー根岸製油所)
・自家発電からの追加供給分 46万kw (三菱化学、JFEスチール、三井化学など)
・横須賀火力発電所内ガスタービンを緊急的に設置(6,7月開始) 約33万kw(東電5/6発表)
・応援受電 3周波数変換所 103万kw(ただし中部電力浜岡原発停止となると難しいかも。)(注:応援受電分は東電の供給力増強分ではなく、元の供給力3650万kwにすでに含まれていた可能性が強いので、外数として復活させた。)
・広野火力発電所1~5号機 復旧 計380万kw(注:全機分がこれまでの増強分に含まれていなかった可能性が大なので改めて追加。)

合計 771.5万kw


東電の見通しの対案として、これまでに行ってきた私の試算による現在の東電総供給力を元に夏の東電供給力を総括すると次のようになる。

・揚水発電を除いた現在の供給力(筆者推定) 4103.5~4148.3万kw
・揚水発電                              600万kw
・東電発表純増強分*                       616万kw  
・上記追加分                                               771.5万kw
     総計                                 6091~6135.8万kw 
(*1150万kwから4103.5~4148.3万kwに含まれる分を差し引いてある。1150万kwは3650万kwからの供給力増強分。重複分は火力の震災からの復旧分で、自社分が516.5万kw、共同火力分17.5万kw、計534万kw。)

ざっくり言って6100万kw。東電見通しより600万kwほど多いが、稼働率や気候などを勘案してある程度の予備力(8%として5650万kw程度)を持つ必要があるので、それほど非現実的な数字でもなかろう。うまく行けば夏場の東北電への応援供給も可能かもしれない。

さらに数字は挙げられないが、今回の大震災とそれに伴う計画停電の影響で、大企業による自家発電促進や家庭、企業等のバックアップ電源確保、節電気運、企業によるピーク電力需要の平準化の動き、政府、東電による企業向け節電要請(今のところ15%)などを考慮すると、昨年のような猛暑にならない限り、計画停電の再来は考えなくて良いであろう。

特に自家発電はきわめて重要だ。2009年度末のデータによると、自家発電はすでに日本の全発電容量の15.63%を占めている(電力会社72.56%、卸電気事業者等10.96%、その他0.84%)。能力にして4395万kwとなる。さらに2010年9月末時点で6035万kwまで増強されているとの情報もあり、そのうち東電管区内だけで、1640万kwの能力といわれる。何と現在の東電供給力(4月27日3000万kw)の半分以上である。今後、原発依存の危険性に対する認識が高まるにつれ、この傾向が一段と強まるのは間違いない。さらに産業用の電力料金システムを家庭用と同じように累進性のものに変えれば、企業の節電と自家発電への切り替えが加速度的に進むことは間違いない。もちろんこれは九電力が考えることではなく、政府が国家戦略の一環として検討する問題である。

(続く)                                                     110502記  110503、110504追記
                            110508 新情報を追加。110515、0520訂正。

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