2011年5月2日月曜日

東電供給力の一考察 その4

4.揚水発電の重要性

最初に述べた3月の連続ツイートでも揚水発電の重要性についてしつこく指摘したが、ここで改めて揚水発電について説明しておきたい。

揚水発電は水力発電のひとつであるが、発電所を挟み上下の2つの調整池からなる。通常は需要が少ない夜間に余剰電力を使って下部調整池から上部調整池に水を汲み上げ、電力需要の多い昼間に上部調整池から下部調整池に水を落として発電する仕組みで、一種の蓄電装置である。したがってその能力は水量にもよるが、夜間の余剰電力がどれだけ使えるかによっても左右される。
なぜこんなことをするかというと、通常電力供給のベースロードを受け持っているのは出力調整が難しい原発や大型火力であり、これではなかなか日中のピークに柔軟に対応できない。そこで短期のピーク需要に備えてこのような手段を考えた。減らせない夜間電力の有効利用というわけである。効率の悪い原発のために考え出された苦肉の策ともいえる。本来なら原発の利用が高まれば水力発電はそれだけ不要になるはずなのに、逆に原発の比率が高まるのと比例して水力発電用のダムがどんどん作られてきた背景にはそうした事情があったのである。故郷を追われ、自分の村を水没させられた人々の犠牲の上に原発は成り立っていたのであり、揚水発電は言わば原発のあだ花であった。

余談はさておき、原発とセットで考えていた揚水発電が、今回は皮肉にも原発停止の助け舟として一躍脚光を浴びることとなった。揚水は能力的には水力発電全体の76%(東電2009年度)をも占めているが、実際の発電量は逆に揚水が16%(東電2009年度)に過ぎない。稼働率は何と2.7%。過去5年間(2005~2009年度)の平均でも4%という少なさ。自社だけで680.8万kw(他社受電372.5万kwを含めれば、計1053.3万kw)もの能力を有する揚水発電が実際に発電した量は2009年度で能力にしてわずか18万kw足らず。

こんなゴミみたいな揚水発電が役に立つのか、と思うかもしれないが、揚水発電の場合は平均しても意味がない。短期決戦だ。
揚水すなわち下の池から上の池に水を汲み上げるのは深夜の余剰電力を使って6~10時間程度しか出来ない。この汲み上げた水を昼間のピーク時に使って発電する。例えば、夜間6時間に1000万kw使って揚水すれば、6000万kwhの電力を消費したことになる。揚水発電の効率(100の電力を使って揚水した水でどれだけの発電が可能か。)は2005~2009年度の平均ではちょうど70%である。ということは6000万kwhの電力の70%すなわち4200万kwhが昼間のピーク時に使えることになる。昼間6時間なら700万kwの出力で発電できる。能力さえ許せば、3時間で集中的に使うと、何と1400万kwの能力が使える計算だ。6時間フル稼働すれば、稼働率は6/24で25%。それでも過去の平均4%弱を6倍以上引き上げねばならない。

では現実問題として、実際にどのくらいの能力が期待できるのであろうか。もちろんその時点での水量が大きく影響するわけだが、これは計算の仕様がないので、省くとして、現実に使える夜間の余剰電力量が問題となる。

東電発表の最近の需給状況を元に、平日の前日ピーク時需要実績からその日の午前0時から6時までの6時間の平均需要量を差し引く方法で計算してみると、現状で大体900万kw程度の余剰能力がある。この夜間の平均需要量にはすでにその日の準備に使った揚水用の需要も含まれているので、仮に900万kwをさらに揚水用に回せれば、これはプラスアルファ分ということになろう。

この900万kw×6時間、すなわち5400万kwhの発電量に70%を掛けた3780万kwhが昼間のピーク時に使えるプラスアルファ分の電力量となる。同じ6時間で使えば、平均630万kw4時間で使えば945万kwの出力となる。

さらに夜間だけでなく、休日日中の電力使用量の少ない時間も平日のピーク時に比べ、1000万kw近い差があるので、これを有効利用することも考えるべきであろう。

揚水発電所の総能力は上述したように、2009年度が東電自社分で680.8万kw他社受電分372.5万kwの計1053.3万kw。現在は他社受電のうち電源開発の沼原発電所(栃木県。67.5万kw)が震災で被害を受けて停止中なので、その分を差し引いても合計985.8万kw。ざっと1000万kw近い揚水発電能力を擁している。
逆に計算して1400万kw程度の夜間余剰電力があれば、汲み上げに要した時間と同じ時間だけ日中に能力一杯の発電が期待できるはずだが。仮に半分の700万kwの余剰電力でも6時間揚水できれば、日中3時間能力一杯フル発電できる計算になる。これは十分可能な数字ではなかろうか。昨年夏にごく短期間だと思われるが、850万kwの揚水発電をした実績があるとの情報もある。
そうは言っても、揚水発電で過去にこれだけぎりぎりのマネジメントを要求されたことは恐らくないと思われるので、今夏はかなり東電の管理能力が試されることになるのは間違いない。

(続く)                           2011/5/2記

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