2011年5月20日金曜日

東電需給計画の我流解釈

今日のブログは愚痴の多い、独り言になると思うので、前向きに世の中と対峙しようと考えている御仁には余りお勧めできない。
3月11日の大震災以来、東電と付き合ってきたが、ホトホト疲れさせられる相手だ。情報は批判が集中するまでは徹底的に隠す。出す情報、数字は必要最小限。しかもトリック一杯で、鵜呑みにするととんでもないことになる。裏の裏まで読まないと騙される。かくゆう私のような東電とお付き合いの浅い者にとっては、まるで答えもヒントもないひねくれパズルを解いているような、妙な心地である。
それでも行き掛かり上、途中で止めるのもシャクに触るし、私にも多少意地があるので、恥を承知で今少し、東電に付き合うことにする。
さて少し気分がすっとした所で、本題に入る。

東電はこれまで3回今夏の需給見通しなるものを発表してる。これが先ほど愚痴った元のひとつであるが、この全体像を把握するのはかなり労力を必要とする。きわめて短い文章ながら、いやだからこそ読めば読むほど分からなくなる。そうも言っていられないので、私なりの大胆な推理と解釈(多分間違っていると思うので、信用しない方がいい。)を加えて、この全容に迫ってみたい。
これからの説明では3月25日のプレスリリース、4月15日のプレスリリース、5月13日のプレスリリースが中心になるが、一々記述すると煩雑になるので、すべて「3/25PR」のように表示することを、あらかじめお断りしておく。(夫々のPR本文は東電ホームページのプレスリリースの欄から読むことが出来るのでここでは全文は再掲しない。)

まず最初の3/25PRで東電は3/24現在の供給力を3650万kwとしている。全てはここから始まる。

①3/24現在供給力      3650万kw
②3/25PR増強後  7月末 4650万kw(+1000万kw)
③4/15PR増強後  7月末 5200万kw(+550万kw)8月末 5070万kw(+1420万kw)
④5/13PR増強後  7月末 5520万kw(+320万kw)8月末 5620万kw(+550万kw)

合計増強分は7月末で1870万kw、8月末で1970万kwとなる。

では、内訳を少し細かく見ていこう。
まず②であるが、
東電による内訳は以下の通り。

(1)震災による停止からの復旧 【760万kW】
鹿島火力1~6号機、常陸那珂火力1号機など
(2)長期計画停止火力の運転再開 【90万kW】
横須賀火力3,4号機 1・2号GT
(3)定期点検からの復帰 【370万kW】
品川火力1号系列第1軸、横浜火力7号系列第2軸など
(4)ガスタービン等の設置 【40万kW】
(5)その他 【▲260万kW】
既設火力の夏期出力減少分(大気温上昇による出力減)など

(1)から順番に見ていくと、震災による停止からの復旧で760万kwとある。その中身であるが、「鹿島火力1~6号機、常陸那珂火力1号機など」とさらりと書いてあるが、これが曲者である。東電HPを詳しく見ている方はお気づきだと思うが、鹿島火力は震災以降ずっと2,3,5,6号機が操業を停止中とだけ記載しており、1,4号機については何も触れていない。普通に読めば、1,4号機は操業しているんだなと解釈するであろう。しかし、同じ敷地内で、1,4号機だけが被災を免れるというのも不自然である。しかもこの(1)に「1~6号機」とあるではないか。ということは1,4号機も止まっていたということになる。ではなぜ東電は1~6号機停止とHPに書かないか。東電の言い訳を類推すると「鹿島1,4号機は震災前から定期検査のため停止していました。したがって、震災で停止したのではないので、地震による停止の欄に入れていません。」定検中にどんなに被害を受けたとしても、供給力減にはなっていないというのが、東電の言い分であろう。2,3,5,6号機については4/20までに相次いで復旧したが、その時もこの4機の復旧以外には何も説明していない。なぜそこまでして実態が知られることを恐れるのかまことにもって不可思議な会社である。(また脱線。)
この論法は鹿島だけでなく、いろいろな所に仕掛けられているので要注意。おそらく震災で停止した他の火力(広野、大井、五井、東扇島など)でもこの論法が使われている可能性があるので、震災時の供給力ロスは実際に考えられているよりかなり大きいかもしれない。(筆者ブログ「電力供給危機は実在した!その1」を参照。)

というわけで長くなってしまったが、私の推理では鹿島の1,4号はおそらく震災前定検中に被災し、7月までには全6機が復旧というのが実際の所ではないか。おそらく現時点でもう全て復旧していると思われるが、詳細は不明。

常陸那珂発電所もすでに5/15に復旧したので問題はない。問題はその後の「など」である。鹿島1~6号機(計440万kw)と常陸那珂(100万kw)で計540万kw。残るは220万kw。これが何かであるか、その時点ではまったく分からなかった。最近になって、5/13PRの増強分に広野火力のほとんどが含まれていることが分かり、逆に当初の震災からの復旧分(760万kw)にはその分が含まれていなかったという推定が成り立つ。この点は後でもう一度詳しく説明する。

(2)は問題なさそうなので、(3)に移るが、ここが大問題。定期点検からの復帰370万kwとあるが、例示はたった2機(計73万kw)のみ。残りの300万弱はまったく不明。新聞報道などで、半分程度は分かったが、後はまったく分からず。東電に再三定検中の火力について照会したが、まったく無視。そのうちHPから問い合わせのコーナー自体が消えてしまった。原発でお忙しいんでしょうが。一応私企業ということになっているので、お客様は大事にしなきゃね。
さらに先ほどの鹿島の所で触れたように、定検からの復帰はあくまでも震災によって被災しなかった発電所のみ(復旧ではなく復帰の文字を使っている点に注意。)であって、震災時に定検中で、被災したものは復旧組みに入ることになる。
(4)のガスタービンについてはある程度詳細にPRで発表しているので、特に問題はなさそう。(5)についても問題なかろう。

次に③に移る。③の内訳は次の通り。

(1)ガスタービン等の設置【7月+20万kW(計60万kW)、8月+80万kW(計120万kW)】
千葉火力、袖ヶ浦火力敷地内など
(2)震災停止・定期点検からの復帰【110万kW】
鹿島共同火力1,3,4号機、常磐共同火力8,9号機
(3)その他 【20万kW(7月)、▲170万kW(8月)】
7月末から8月末への供給力減少(190万kW)については、柏崎刈羽1号機および7号機の定検停止によるもの
(4)揚水発電の活用【400万kW】

(1)については先ほどと同様で特に問題はないが、注意を要するのは8月の「+80万kW(計120万kW)」の表現である。普通に考えれば、①のガスタービン増設が40万kw、今回の7月末増強分が+20万kwで計60万kw、さらに8月末までに80万kwなら計140万kwになるはずであるが、この80万はあくまで3/25PRからの増分という意味のようで、正味60万kwで計120万と読むらしい。なんとも不思議な表現である。
次の(2)は共同火力の復帰、復旧分をさしているようである。鹿島共同火力の1,3,4号機は計105万kwで東電分は半分の52.5万kw、常磐共同火力8,9号機は計120万kw、東電分は49.11%で59万kw。合計111.5万kw。ほぼ110万kwで、符合している。
(3)その他の20万kwは内容不明。柏崎定期検査は2機分でマイナス190万kw。(▲170万kWとあるのは単なるミスタイプ?)柏崎については5/13PRでは一言も触れていないが、ということは予定通り定期検査を行うということらしい。数字的にもそうなっている。延期のうわさもあったが、浜岡原発のこともあるので、定検延期は難しいのであろう。
(4)揚水発電についてはすでにこれまでに述べたので省略。

最後に④について。内訳は次の通り。

(1)ガスタービン等の設置    【7月+20万kW(計80万kW)、8月+30万kW(計150万kW)】
(2)震災停止・定期点検からの復帰 【7月+60万kW、8月+280万kW】
    長期計画停止中の横須賀火力5~8号機(各35万kW)を除いた当社全火力発電所の復帰を織り込み
(3)その他 【▲10万kW】    自家発余剰の購入の増、応援融通の減
(4)揚水発電の活用 【+250万kW(計650万kW)】

(1)については前に書いた通り、7月末はこれまでの40万+20万+20万で計80万kw、8月末は足し算に注意して、今回正味10万kwで、40万+20万+60万+20万+10万で計150万kwとなる。

次が問題含みの7月末+60万kw、8月末+280万kwである。これが何を指すかはこれだけでは分からないが、PR発表時の記者会見などからこの中身は広野を指しているようである。しかもこれによって「長期計画停止中の横須賀火力5~8号機(各35万kW)を除いた当社全火力発電所の復帰を織り込」んだと言うので、広野の全能力もこれまでの増強計画に全て含まれていることになる。7月末の+60万kwが広野火力の1機だとすると、8月末の220万kw(例によって280万kwには7月末の60万kwも含まれるので、正味は220万kw)はおそらく、第3機(100万kw)を除く他の3機(100万kw×1機、60万kw×2機)とみられる(100万kw2機の内第4機が220万kwに含まれているとの情報から)。では残る1機(おそらく第3機)はどこに行ったのか?いよいよ推理の佳境に差し掛かった。

その前に念のため触れておくが、広野に関しても東電PRでは今も「2,4号機が地震により停止」とだけしか記しておらず、他の1,3,5号機の状態についてはまったく明らかにしていない。私の知る限りでは新聞でもこれまで1社のみが全機停止中と簡単に述べているだけである。東電のご意向で、知っていて書かない記者クラブの体質がなせる業なのか、調べる気がないのか、疑問すら感じないのか、実態は闇の中である。また余談が長すぎた。

この謎解きは少々大胆すぎてちょっと書くのは躊躇するが、そこが素人のいい所で、失敗を覚悟で推理してみよう。何せ現場を見ないで書くので単純な数字合わせに過ぎないのだが。

ここで一番最初の①の「震災による停止からの復旧【760万kW】」に話は戻る。
鹿島1~6号機(計440万kw)と常陸那珂(100万kw)で計540万kw。残るは220万kwというところまでは最初に書いた。
では残りの220万kwの中身は果たして?ここからが大胆推理の始まりである。

まず考えられるのが、共同火力、IPPなどの他社受電分である。これら震災からの復旧分が3/25時点でどの位見込めたか試算すると、

住友金属鹿島火力(IPP)          47.5万kw 
日立造船茨城発電所(IPP)                   25万kw 
日立臨海発電所(IPP)                         18.9万kw
JX日鉱日石エネルギー根岸(IPP)           34.2万kw
             計                         125.6万kw

共同火力については4/15PRで、鹿島共同火力1,3,4号機、常磐共同火力8,9号機を織り込んだが、3/25時点で見込みの立った共同火力はなかったように思う。

これを220万kwから引くと94.4万kw。ほぼ100万kw。広野火力の3号機能力に大体符合する。もちろん疑問はある。もしそうだとしても、特になぜ広野3号機だけが当初から復旧可能と見込まれたのか。しかしここに第3機分を含めないと第3機が宙に浮いてしまうのも事実である。なにしろ横須賀火力5~8号機を除いた東電全火力発電所の復帰を織り込んだと言っているので、ここ以外に含める所がないのである。もちろん稼動中だというなら話は別であるが、そういう情報もない。

以上が760万kwの謎に対する私の大胆推理である。見当外れの可能性は大であるが、一応記しておく。

さて残るは(3)の「その他【▲10万kW】自家発余剰の購入の増、応援融通の減」の部分である。

応援融通から話を始めたい。まずこの分(周波数変換所3カ所の計100万kwと北海道からの60万kw)は、現状ではおそらく利用されていないと思われるが、3/24現在の供給力(3650万kw)に含まれていたようである。3/25以降の増強計画に新たに加えられた形跡はなく、 「応援融通の減」とあるということは当初から含まれていたと解釈せざるをえないからである。
実際に応援融通の減少分とは何か。僅かしかない情報も矛盾が多く、はっきりしないが、大体次のような状況ではないかと思う。
北海道からの融通分は30万減って30万kwのようだ。周波数交換所関連では、中部電力から融通される予定であった75万kwが浜岡原発停止によって難しくなったが、この分は関西電力などからの融通で賄い、予定の103万kw(中電増分3万kwを含む。)全量確保が可能になった模様。
一方、自家発電余剰の購入は10~20万kw程度しか見込めない模様で、結局応援融通との差し引きで、マイナス10万kwということらしい。残念ながら、今のところこの程度しか分からない。

以上が東電が示した電力供給計画の内容分析結果である。
無謀とも思える仮説を含んでいるので余り信憑性はないが、東電の情報隠しの前では、私としてはこれが精一杯の結果であることを告白せざるをえない。東電情報の多少の整理に役立てば幸いである。

(おわり)

2011年5月17日火曜日

電力供給危機は実在した!その2

2.計画停電の是非

一瞬にして供給力の3分の1を失うというのはストックの出来ない電力供給においては致命傷である。こうして改めて数字で見せられると、その被害が尋常ならざるものであったことを再認識させられる。

この事態にいかな東電でも果たして冷静でいられたであろうか。東電の強かさ、傲慢さには日頃呆れている筆者でも、この事態で陰謀を巡らすほどの余裕が東電 にあったとは思えない。そのあたりの混乱振りは下の表にある3/11から数日間の東電の需要、供給力予測に如実に現れている。もっとも、やや不自然な動き があることも確かで、特に計画停電の前日(3/13)に発表した14日の予想需要が急増し、供給力がガクッと落ちている。いかにも計画停電の大義名分を作 り出した感じである。この表は東電が毎日発表している翌日の供給力と需要予測、そして需要実績をプロットしたものである。すでにツイッター (@suginakkuri)で5月10日に指摘したように、この東電発表の供給力には注意を要する。これは東電が今使えるマックスの供給力を示している わけではなく、明日の需要予測に基づき、明日のために用意する供給力という意味である。基礎的、長期的な供給力とは直接関係ない。したがって、電力消費が この供給力に対して、「今90%を超えましたのでお気を付け下さい。」といっても、東電の需要予測が甘かっただけであまり意味はない。もちろんその日の消 費が予想以上に増え、供給力の上限に達してしまえば、停電ということになりうるが、常に予備力を用意しているので、当初の数日間を除けば、これまで一度も そういう事態に至ったことはない。そのあたりは下の表で見れば明らかである。

話が逸れてしまったが、供給力喪失に話を戻そう。おそらく震災前には供給力がさほど逼迫していなかったと思われるので、揚水発電はほとんど用意していな かったのではなかろうか。当然ながら揚水発電のためにはあらかじめ夜間に揚水しておかなければならず、緊急時には間に合わない。さらに供給力を大きく失った状況では夜間電力も余力がなく、揚水が当てに出来ないのは明らかである。となると一瞬にして供給力 の1/3が失われたとなると、これほど膨大な余力をすぐに用意するのは不可能であり、状況把握もままならない中で、東電が計画停電に飛びつきたくなるのも 無理からぬところであろう。その点ではネットを初めとして盛んに言われた東電陰謀説は当たらないというのが私の結論である。もちろん私より正確なデータを お持ちの方も多いと思うので、ぜひ反論をお願いしたい。

だが、そうした供給危機状態はごく当初の数日間だけである。詳細はすでに「東電供給力の一考察」で述べてあるので、そちらをお読みいただきたい。
さらに計画停電の手法自体にはきわめて問題な点が多い。計画停電については、すでに様々な方が批判を展開しているので、ここでは詳細に論ずるつもりはないが、重要なポイントをいくつか指摘しておきたい。

まず、現状説明がまったくなされず、いきなり 震災の翌日(3/12)午前に計画停電を持ち出したこと、しかも発表した翌日から実施するとした点(13日が日曜日だったこともあって、さすがに1日延ば したが)は、協力を求める前に問答無用の強権発動といったやり方でいかにも拙速であった。

一番の問題は週明けにいきなり鉄道に対する配電をストップしたため、通勤、通学を初め交通網に大混乱をもたらした点である。なぜこのように鉄道を標的にし たのか大きな謎である。なぜなら鉄道関連の電力消費量は僅か2.2%(2010年度東電)に過ぎず、実質的効果が乏しいからである。意地悪く勘ぐれば、鉄 道分野は最も早く、かつ大規模に九電力離れして、電力を自給している業界であり、お得意さんではない点を指摘せざるを得ない。まさか鉄道の弱点である踏切 (ここだけはなぜか電力に依存)を狙い撃ちにしたわけではないと思うが。一方、経団連などの仲間であるいわゆる大口電力産業には、「需給調整契約」に基づ き、供給抑制で協力を要請できるにもかかわらず、社会的影響が大きいという理由で要請しなかった。さらに計画停電の対象からはずしているケースまであると いう(このあたりは河野太郎氏のブログ「ごまめの歯ぎしり」に詳しい。)
これに加え、東京都内はほとんど計画停電の対象にならず、もっぱら地方に停電を押し付けるという不公平感も納得できない点である。これは原発のリスクを福島に負わせ、自分は利益だけを享受しようという都市のエゴと無関係ではあるまい。

さらにこのような国民生活に大きな影響を及ぼす計画停電が、政府主導ではなく、完全に東電主導で行われている点である。東電は官僚以上に官僚的で、政府はまったく機能していない。

最後にもう一言。国民にとって原発停止のショックが大きかったせいか、あるいは東電の供給危機の脅しが効いたせいか、計画停電以降予想以上の節電効果を示 した。しかも、火力発電所の復旧、揚水発電の整備も進んで早い時期に計画停電の必要性はなくなっていたはずである。その点はネットで多く指摘されており、 その通りだと思う。それにもかかわらず、計画停電はずるずると引き延ばされ、実質3月28日(月)まで2週間に亘って続けられた。始めた時はいかにも唐突 であったが、終わりはいかにも蛇足であった。しかもその間も毎日の需要予測値と供給力の数値を一本で示すだけで、その根拠となるデータを明らかにするどこ ろか、ご丁寧にも都合の悪いデータをホームページから削除するという有様である。

以上で東電の供給力研究は一先ず区切りとしたい。しかし、この夏に向かって、電力各社がどんな戦略を打ち出してくるか、これからも注意深く見守り、要求すべきことはしっかり要求し、この機会を電力業界の抜本的改革の足掛かりにしていかねばならないと思う。

(完)                           110517一部加筆。


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2011年5月14日土曜日

電力供給危機は実在した!その1

1.電力供給危機は実在した!


3月の東電による計画停電は本当に必要だったのか。相変わらず議論百出だが、実はきちんとデータで詰めた話にはなっていないような気がする。そこであえて ちょっとショッキングなタイトルを付けたが、改めて、出来るだけ客観的にデータを元にした検証をしてみたいと思う。

今更の感もあるかもしれないし、東電の秘密主義のためにどこまで出来るか自信はない。しかし、中電の浜岡原発停止決定を受けて、またぞろ今夏に向けての電力供給問題が頭をもたげてきた昨今、この命題に挑戦してみる意味もあるのではなかろうか。

前置きはこの位にして、この検証を始めるにはまず大震災直前の東電の電力供給力の把握から始めねばならない。その時点での自社分、他社受電分は筆者推定で次の通りとなる。なおここで使っている数字は、基本的には筆者がすでに本ブログ 「方丈庵 東電東電供給力の一考察」に掲載しているものを使っているので、結論のみを示す。詳細はそちらを見ていただきたい。


・大震災直前の東電供給力

(1)自社分: 1212.4万kw(原発)+2927.1万kw(火力)+218.2万kw(揚水除く水力)=4358.1万kw。揚水680.8kw含むと5038.9万kw。

(2)他社受電分: 88万kw(原子力)+501.7~546.5万kw(火力)+192.6万kw(揚水除く水力)=782.3~827.1万kw。揚水372.5万kw含むと1154.8~1199.6万kw。

以上から、

(3)震災直前の総供給能力: 揚水を除くと5140~5185万kw。揚水を含むと6194~6239万kw

ついで、震災直後の供給力について試算してみよう。

・震災直後の東電供給力

(1)自社分: 491.2万kw(原発)+2150.6万kw(火力)+218.2(揚水除く水力)=2860.4万kw。揚水680.8万kwを含めると3541.2万kw。

(2)他社受電分: 0(原子力)+236.9~281.8万kw(火力)+192.6万kw(揚水除く水力)=429.5~474.4万kw。305万kwの揚水を含むと734.5~779.4万kw。

以上から、

(3)震災直後の供給力: 揚水を含まないケースで2860.4万kw(自社分)+429.5~474.4万kw(他社受電 分)=3290~3335万kw。揚水を含むと3541.2万kw(自社分)+734.5~779.4万kw=4276~4321万 kw

それでは東電の電力供給力は震災によってどれだけ失われたのか。計算してみよう。

・失われた供給力

まず揚水を除いたケース。5140~5185万kw-3290~3335万kw=1850万kw。何と36%、1/3以上が失われたことになる。

揚水を含んだケースでは、6194~6239万kw-4276~4321万kw=1918万kw。この場合でも31%、3割強である。

ここで一応震災によって失われた能力の中身を簡単に説明しておこう。言うまでもないが震災前にすでに定検などで停止されていた能力分は震災前能力から除いてある。広野と鹿島に関しては操業中に被災した分以外(計340万kw)は定検中に被災したと推定されるので、差し引いてある(その他は不明なので、一応稼動中と見なした)。

自社分では、原発が福島第一原発第1~4号機(計281.2万kw)、福島第二原発第1~4号機(計440万kw)で合計721.2万kw。火力発電所は広野、常陸那珂、鹿島等6箇所計11機の776.5万kw。したがって合計1497.7万kwの減。

他社受電分では、日本原電東海第二原発分(88万kw)の他、火力では鹿島、常磐、相馬の各共同火力の計126.7万kwとIPP関連の住友金属鹿島火 力、日立造船茨城、日立臨海、JX日鉱日石エネルギー根岸、昭和電工川崎事業所などで計138万kw。火力合計264.7万kw。よって他社受電分は合計 352.7万kw。

自社分、他社受電分の合計は1850万kw。

これに他社受電揚水(電源開発の沼原発電所。67.5万kw)の減少分を加えると1918万kw。

これが先ほど示した、震災によって失った能力の内訳である。

なお3/11の大震災直後には、前のブログでも触れたように、東電水力発電所23箇所、変電所9箇所が運転を中止したが、水力発電所については12日中に全 て復旧、 変電所も15日までに全て復旧した。水力についてはごく短期間の停止であったので、ここで言う失われた能力には加えていない。しかし後で触れるが、計画停 電の考えを東電が明らかにしたのが、12日の午前と思われるので、その時点ではまだ水力発電所は復旧していなかった可能性が強く、この能力停止は判断にか なり影響を与えたかもしれない。

ここで改めて数字を整理してみると、

(揚水を含まないケース)
・大震災前の東電供給力   5140~5185万kw
・震災直後の東電供給力    3290~3335万kw
・失われた供給力           1850万kw
・同上 %                36%

(揚水を含んだケース)
・大震災前の東電供給力    6194~6239万kw
・震災直後の東電供給力      4276~4321万kw
・失われた供給力           1918万kw
・同上 %               31%


(続く)                                 110519加筆、修正

2011年5月3日火曜日

東電供給力の一考察 その6 (結)

6.結論

ここまで東電の公表数字を中心に見てきたが、残念ながら、積み上げのための詳細情報を示さないので、十分な精査が出来ないのが実態である。とにかく東電の秘密主義は異常で、最近は自社の発電設備能力のデータや発電所一覧ですらホームページから抹消するという念の入れようである。もちろん各発電所の操業状況などは大震災で被災したもの以外はほとんど情報がなく、照会にも一切応じない。消費者の目を気にする一般の私企業では考えられないことで、さすが地域独占のカルテル企業だけのことはある。

当初この考察を始めたきっかけは言うまでもなく、東電の供給力を検証することであった。しかし、もし東電がきちんと詳細を明らかにして、実情がこうなのでぜひ理解、協力して欲しいと説明すれば、事足りることである。結局この考察の結果、本当の危機は今夏東電の電力供給に生じる危機ではなく、東電の情報隠蔽体質が作り出す危機であるということが明白になった。

結局は地域独占、発電・送電・配電支配(とりわけ送電)、総括原価主義などが今日の九電力の硬直的、官僚的寡占体質を作り上げてきた事実をきちんと総括し直すことから出発しなければならない。その上で、より自由で、競争的で、コスト概念のしっかり反映された、真に公共性の高い平等なシステムを構築しなければならないという結論にならざるを得ない。それには高い政治性が求められるが、今の菅政権には望むべくもない。


以上                            110503記

東電供給力の一考察 その5

5.夏の需給見通し

これまで見てきたように、現状においては需要に対して供給力は大分余裕が出てきていると見られる。これは火力発電所の復旧、定期検査からの復帰、揚水発電の確保、他社受電の進展などの貢献があるが、節電効果も大きいように思う。平日においては前年同日と比較してピーク時1000万kw近く需要が下回っている日が多いのは、消費者の節電意識に依る所が多いと見ていいだろう。東電も節電の効果で「各日の最大電力は、前年に比べ約20%下回って推移」していると認めている。

一方、供給サイドから見た今後の見通しはどうか、次に見ていきたい。

東電は3月25日のプレスリリースで、7月末供給力見通しを発表している。
これによると7月末の供給力は、震災によって停止した全火力の復旧(760万kw)、長期計画停止中の横須賀火力3,4号機、G1,G2号の運転再開(90万kw)、定期点検からの復帰(370万kw)、ガスタービン等の設置(40万kw)、その他 ▲260万kw(大気温上昇による既設火力の夏期出力減少分)を加味し、4650万kwとしている。揚水発電はこの数値には含まれていないが、3月24日現在の供給力(3850万kw)には200万kw織り込んでいる。

それに加え東電は、4月15日プレスリリース「今夏の需給見通しと対策について(第2報)」で、次のような追加対策を織り込んだ新たな見通しを発表した。(ただし下の東電情報には数字の誤りと見られる箇所が散見されるため筆者の推定で訂正してある。)

(1)千葉火力、袖ヶ浦火力敷地内などにガスタービン等の設置(7月+20万kw、8月+60万kw)   
(2)震災停止・定期点検からの復帰(110万kw)
鹿島共同火力1,3,4号機、常磐共同火力8,9号機
(3)その他 20万kw(7月)、▲190万kw(8月)(7月末から8月末への供給力減少は柏崎刈羽1号機および7号機の定検停止によるもの。)   
(4)揚水発電の活用(400万kw)

<今夏の需給見通し>  

                  7月末   8月末  3/25時点での7月末
需要(発電端1日最大)   5,500        5,500      5,500
  供給力                   5,200        5,070           4,650*
  予備力              ▲300       ▲430          ▲850
                                                                    *揚水発電を含まず。

さらに東電の藤本孝副社長は4月20日になってさらに夏の電力供給力を最大5500万kw程度に引き上げることを目指す意向を表明した。また東電は、稼働中の柏崎刈羽1、7号機(110万、135.6万kw)で8月に予定している定期点検を「電力確保のため」に延期することも示唆しているといわれる。この柏崎原発の定検延期は東電にとって頭の痛い問題である。定検に入れば供給力確保が一層難しくなるだけでなく、反原発の高まりの中で定検後再開出来なくなる恐れがあるだけでなく、大口需要家の自家発電促進に拍車が掛かる可能性も高い。逆に無事夏を乗り切れば原発不要論にさらに根拠を与えかねない。一方、安易な定検延期は法律上も、安全上も批判は免れない。

また5500万kw確保の根拠が示されていないので、プラス300万kwの中身は不明である。先に私案で示したように、600万kwを揚水で確保できるとすれば、あと200万kwは揚水で賄える。少なく見積もって300万kwの半分を揚水で手当てするとして、残りは150万kwなので、それほど難しくはないように思える。思いつくまま候補を列挙してみると次のようになる。

・横須賀火力5~8号機(35万kw×4機計140万kw)の再開
・大井火力発電所内にガスタービン約21万kw(7月までに運転開始)
・常磐共同火力7号機(25万kw)復旧 12.3万kw
・群馬・高浜発電所(複合ごみ発電)2万kw
・IPP復旧分 34.2万kw(JX日鉱日石エネルギー根岸製油所)
・自家発電からの追加供給分 46万kw (三菱化学、JFEスチール、三井化学など)
・横須賀火力発電所内ガスタービンを緊急的に設置(6,7月開始) 約33万kw(東電5/6発表)
・応援受電 3周波数変換所 103万kw(ただし中部電力浜岡原発停止となると難しいかも。)(注:応援受電分は東電の供給力増強分ではなく、元の供給力3650万kwにすでに含まれていた可能性が強いので、外数として復活させた。)
・広野火力発電所1~5号機 復旧 計380万kw(注:全機分がこれまでの増強分に含まれていなかった可能性が大なので改めて追加。)

合計 771.5万kw


東電の見通しの対案として、これまでに行ってきた私の試算による現在の東電総供給力を元に夏の東電供給力を総括すると次のようになる。

・揚水発電を除いた現在の供給力(筆者推定) 4103.5~4148.3万kw
・揚水発電                              600万kw
・東電発表純増強分*                       616万kw  
・上記追加分                                               771.5万kw
     総計                                 6091~6135.8万kw 
(*1150万kwから4103.5~4148.3万kwに含まれる分を差し引いてある。1150万kwは3650万kwからの供給力増強分。重複分は火力の震災からの復旧分で、自社分が516.5万kw、共同火力分17.5万kw、計534万kw。)

ざっくり言って6100万kw。東電見通しより600万kwほど多いが、稼働率や気候などを勘案してある程度の予備力(8%として5650万kw程度)を持つ必要があるので、それほど非現実的な数字でもなかろう。うまく行けば夏場の東北電への応援供給も可能かもしれない。

さらに数字は挙げられないが、今回の大震災とそれに伴う計画停電の影響で、大企業による自家発電促進や家庭、企業等のバックアップ電源確保、節電気運、企業によるピーク電力需要の平準化の動き、政府、東電による企業向け節電要請(今のところ15%)などを考慮すると、昨年のような猛暑にならない限り、計画停電の再来は考えなくて良いであろう。

特に自家発電はきわめて重要だ。2009年度末のデータによると、自家発電はすでに日本の全発電容量の15.63%を占めている(電力会社72.56%、卸電気事業者等10.96%、その他0.84%)。能力にして4395万kwとなる。さらに2010年9月末時点で6035万kwまで増強されているとの情報もあり、そのうち東電管区内だけで、1640万kwの能力といわれる。何と現在の東電供給力(4月27日3000万kw)の半分以上である。今後、原発依存の危険性に対する認識が高まるにつれ、この傾向が一段と強まるのは間違いない。さらに産業用の電力料金システムを家庭用と同じように累進性のものに変えれば、企業の節電と自家発電への切り替えが加速度的に進むことは間違いない。もちろんこれは九電力が考えることではなく、政府が国家戦略の一環として検討する問題である。

(続く)                                                     110502記  110503、110504追記
                            110508 新情報を追加。110515、0520訂正。

2011年5月2日月曜日

東電供給力の一考察 その4

4.揚水発電の重要性

最初に述べた3月の連続ツイートでも揚水発電の重要性についてしつこく指摘したが、ここで改めて揚水発電について説明しておきたい。

揚水発電は水力発電のひとつであるが、発電所を挟み上下の2つの調整池からなる。通常は需要が少ない夜間に余剰電力を使って下部調整池から上部調整池に水を汲み上げ、電力需要の多い昼間に上部調整池から下部調整池に水を落として発電する仕組みで、一種の蓄電装置である。したがってその能力は水量にもよるが、夜間の余剰電力がどれだけ使えるかによっても左右される。
なぜこんなことをするかというと、通常電力供給のベースロードを受け持っているのは出力調整が難しい原発や大型火力であり、これではなかなか日中のピークに柔軟に対応できない。そこで短期のピーク需要に備えてこのような手段を考えた。減らせない夜間電力の有効利用というわけである。効率の悪い原発のために考え出された苦肉の策ともいえる。本来なら原発の利用が高まれば水力発電はそれだけ不要になるはずなのに、逆に原発の比率が高まるのと比例して水力発電用のダムがどんどん作られてきた背景にはそうした事情があったのである。故郷を追われ、自分の村を水没させられた人々の犠牲の上に原発は成り立っていたのであり、揚水発電は言わば原発のあだ花であった。

余談はさておき、原発とセットで考えていた揚水発電が、今回は皮肉にも原発停止の助け舟として一躍脚光を浴びることとなった。揚水は能力的には水力発電全体の76%(東電2009年度)をも占めているが、実際の発電量は逆に揚水が16%(東電2009年度)に過ぎない。稼働率は何と2.7%。過去5年間(2005~2009年度)の平均でも4%という少なさ。自社だけで680.8万kw(他社受電372.5万kwを含めれば、計1053.3万kw)もの能力を有する揚水発電が実際に発電した量は2009年度で能力にしてわずか18万kw足らず。

こんなゴミみたいな揚水発電が役に立つのか、と思うかもしれないが、揚水発電の場合は平均しても意味がない。短期決戦だ。
揚水すなわち下の池から上の池に水を汲み上げるのは深夜の余剰電力を使って6~10時間程度しか出来ない。この汲み上げた水を昼間のピーク時に使って発電する。例えば、夜間6時間に1000万kw使って揚水すれば、6000万kwhの電力を消費したことになる。揚水発電の効率(100の電力を使って揚水した水でどれだけの発電が可能か。)は2005~2009年度の平均ではちょうど70%である。ということは6000万kwhの電力の70%すなわち4200万kwhが昼間のピーク時に使えることになる。昼間6時間なら700万kwの出力で発電できる。能力さえ許せば、3時間で集中的に使うと、何と1400万kwの能力が使える計算だ。6時間フル稼働すれば、稼働率は6/24で25%。それでも過去の平均4%弱を6倍以上引き上げねばならない。

では現実問題として、実際にどのくらいの能力が期待できるのであろうか。もちろんその時点での水量が大きく影響するわけだが、これは計算の仕様がないので、省くとして、現実に使える夜間の余剰電力量が問題となる。

東電発表の最近の需給状況を元に、平日の前日ピーク時需要実績からその日の午前0時から6時までの6時間の平均需要量を差し引く方法で計算してみると、現状で大体900万kw程度の余剰能力がある。この夜間の平均需要量にはすでにその日の準備に使った揚水用の需要も含まれているので、仮に900万kwをさらに揚水用に回せれば、これはプラスアルファ分ということになろう。

この900万kw×6時間、すなわち5400万kwhの発電量に70%を掛けた3780万kwhが昼間のピーク時に使えるプラスアルファ分の電力量となる。同じ6時間で使えば、平均630万kw4時間で使えば945万kwの出力となる。

さらに夜間だけでなく、休日日中の電力使用量の少ない時間も平日のピーク時に比べ、1000万kw近い差があるので、これを有効利用することも考えるべきであろう。

揚水発電所の総能力は上述したように、2009年度が東電自社分で680.8万kw他社受電分372.5万kwの計1053.3万kw。現在は他社受電のうち電源開発の沼原発電所(栃木県。67.5万kw)が震災で被害を受けて停止中なので、その分を差し引いても合計985.8万kw。ざっと1000万kw近い揚水発電能力を擁している。
逆に計算して1400万kw程度の夜間余剰電力があれば、汲み上げに要した時間と同じ時間だけ日中に能力一杯の発電が期待できるはずだが。仮に半分の700万kwの余剰電力でも6時間揚水できれば、日中3時間能力一杯フル発電できる計算になる。これは十分可能な数字ではなかろうか。昨年夏にごく短期間だと思われるが、850万kwの揚水発電をした実績があるとの情報もある。
そうは言っても、揚水発電で過去にこれだけぎりぎりのマネジメントを要求されたことは恐らくないと思われるので、今夏はかなり東電の管理能力が試されることになるのは間違いない。

(続く)                           2011/5/2記

2011年5月1日日曜日

東電供給力の一考察 その3

3.東電発表能力との比較

次に視点を変えて、東電側は現在の供給力をどう見ているのかをチェックしてみたい

と思う。

東電が3月12日より発表している供給力は毎日のように変化しており、3月12日に

3700万kwであったものが、15日には3300万kwに減り、その後少しづつ増え、3月24

日には3850万kwに達した。24日以降は日によって多少の上下はあるものの大きな

変化は見られなかったが、4月5日に初めて4000万kwを記録、11日にはこれまでの

最高の4250万kwとなった。しかしその後毎日上下し、低い方では29,30日(祝日、土)

に3400万kw、高い方では4150万kw程度を示している。

常識的に考えれば、施設の故障、損壊などがなければ、供給力というものはそんな

に毎日上下することは考えにくい。それなのに毎日の需要予測に合わせるかのよう

に供給力が上下するのは一体なぜなのか。

結論から言えば、おそらく平日日中の需要ピーク時に備えて前日までに揚水発電に

よってある程度予備電源を確保しているからではないかと推測される。これは月曜日

の供給力がどの週もほとんど最高レベルになっていることからも伺える。すなわち

土、日の需要が少ない間に余剰電力を使って週明けの需要増に備えていると思わ

れるからである。

東電の言う供給力の定義ははっきり示されてはいないが、その日のピーク時におけ

る最大供給力(おそらく1時間)であり、一日中この供給が継続できるわけではない。

後で詳しく説明するが、揚水発電は長期間に渡って継続的に発電できるわけではな

いので、ピーク時に焦点を当てて、まさにピークシェイビングする手段として使われて

いる。

では東電は現在どの程度の揚水発電を用意しているのか。

3月25日に東電が発表したプレスリリースによれば、揚水を含まない供給力は3650

万kw、含んだ供給力は3850万kwとしている。すなわち200万kwが揚水発電である。

その後4月の初めまではほぼこの供給力(3850万kw)で推移し、4月に入って鹿島火

力が相次いで復旧した(8日までに計220万kw復旧)ことにより、ほぼ4100万kw程度

の供給力を確保、当面の供給危機を脱した。こうした状況の中、計画停電は3月28

日(月)を最後に中止されている。その間おそらく揚水発電能力の見込みがかなり

立ったものと見られ、4月15日のプレスリリースでは7月末までの供給力に400万kw

の揚水発電能力を織り込んでいる。

現在は推定で約3900万kw程度のベース能力プラス最大300万kw程度の揚水を確保

しているのではないかと思われる(計4200万kw)。

しかし、私の現能力の推定は上述したように揚水発電を除いて、4103.5~4148.3


万kwであるので、これに揚水発電分300万kwを加えると4400から4450万kw程度

となり、東電の供給力はかなり控えめということになる。もちろん稼働率その他を考

えれば、東電としてはかなり余力を持っておきたいのは当然であろうが。

(続く)                     110508、110520 一部数字更新。

東電供給力の一考察 その2

2.他社からの受電能力

東電自身の能力に加え、供給力として当てに出来るのは、応援受電、他社受電など

であるが順次見ていこう。

(1)応援受電 最大160万kw。

内訳は次の通り。

  •  新信濃変換所 60万kw (周波数変換所)
  •   佐久間変換所   30万kw (  同上  )
  •  東清水変換所 10万kw (  同上  )
  •  北本連携設備 60万kw (東北電力網を通じ、北海道電力から受給)

これらの関西および北海道からの応援受電は3月11日の震災直後から、実際に使わ

れ、最大160万kwのマックス供給力に達した。しかし3月26日以降は供給力に余裕が

生じたのか、使われていない。今後夏に向けて需給が逼迫してくれば、再び復活する

可能性が大であるが、東北の復興が進むと北海道からの応援は東北が優先されると

思われるので、東電が期待出来る応援受電は100万kwまでとなろう。

なお中部電力は東清水変電所の能力を5月までに3万kw増やし13万kwに、さらに来

年秋にも30万kwに増強し、東電へ融通する意向を示している。

(2)他社受電

他社受電に関してはさらに詳細が不明であるが、その主体となる卸電気事業者(電

源開発、日本原子力開発等)、共同火力、卸供給事業者(いわゆる独立系発電事業

者IPP)を中心にチェックしてみたい。

2009年度末の東電他社受電能力は以下の通りであり、一応これをベースに検討して

みる。  

    他社受電           出力(単位:1000kw)
  •  水力      一般        1926
  •                揚水        3725
  •                小計        5651
  •  火力      石油        1182
  •                石炭        3174
  •           LNG LPG         704
  •          その他ガス       1613
  •                  小計         6673
  •   原子力                      880
  •   新エネ等                       0
  •       計                     13205

まず原子力であるが、日本原電東海第二原発(110万kw)は大震災の影響で現在停

止中であり、表の88万kwはここからの供給分と思われる。したがってこの88万kwは

まずマイナスとなる。

一般水力については全て問題ないと見なして良いであろう。揚水発電については電

源開発の沼原発電所(栃木県。67.5万kw)が震災で被害を受けて停止中と見られる

が、その他は影響ない模様。

揚水については後述する。

次は火力であるが、まず共同火力の状況を見てみよう。

東電出資の共同火力は4カ所ある。

鹿島共同火力(東電50%と住友金属工業50%の合弁)は1~4号機(各35万kw、計140万kw。)のうち、1,3号機が大震災の被害を受け、3号機はなお復旧作業中。しかし1号機は4月16日運転再開。2号機は計画停止中。4号機は定期検査中。したがって当面役に立つのは35万kwのみ。東電分は半分の17.5万kw。残る105万kwの半分52.5万kwが東電のマイナス分。

常磐共同火力は4機合計162.5万kwであるが、1機(8号機60万kw)は定期検査中、2機(7号機25万kw、9号機60万kw)が震災被害で停止中、結局現在1機(6号機17.5万kw)のみが稼動中。東電のシェアは49.11%なので8.6万kw程度となる。損失は約71.2万kw。

君津共同火力(東電50%と新日本製鐵50%の合弁)は4機(合計59.4万kw)のうち3機が稼動中で、予備の1機(12.5万kw)は停止中。東電分は23.5万kw。東電の停止分は6.25万kw。

相馬共同火力(東電50%と東北電50%の合弁)は100万kw2機(計200万kw)を有するが、3月11日の震災の際1機は定期点検中、1機は運転停止。当面2機とも運転停止。東電分はゼロ。東電のマイナスは100万kw。

したがって共同火力の東電分は49.6万kwで、東電が失った能力は合計230万kw。

その他の他社受電火力は情報が限られているが、主なものを見てみよう。

・電源開発磯子火力 60万kw2機(計120万kw)を運転中。うち100万kwが東電供給分。

・住友金属鹿島火力(上述IPP) 震災により停止していたが、3月25日に早期復帰、すでに100%稼動(47.5万kw)に入っている。震災前よりすべて東電に供給されている。

・日立造船茨城発電所(IPP) 3機合計25万kwを東電に供給していたが、3月16日に操業を停止した。東電ロス25万kw。  

・日立臨海発電所(IPP) 2機合計18.9万kw。詳細不明だが、今のところ停止中の模様。東電ロス18.9万kw。

・JX日鉱日石エネルギー (IPP)同社は東電とは横浜製油所の4.9万kwと根岸製油所の34.2万kwの契約がある。同社に確認したところ、横浜製油所のIPP供給は影響を受けず、継続中。しかし根岸製油所は、3/11の震災で停止。そのまま定検に入り、今も停止中。再稼動は定検明けの5月下旬を計画とのこと(5/6情報)。東電ロスは34.2万kw。

・荏原製作所藤沢工場第二(IPP)6.7万kw。順調運転の模様。

・昭和電工 川崎事業所(IPP)12.42万kw。震災で一旦操業を停止したが、3月17日には再開している。

・トーメンパワー寒川(IPP)6.55万kw。停止の報なし。

・JFEスチール 千葉(IPP)38.18万kw。フル回転操業中。

・ジェネックス(東亜石油、電源開発合弁)(IPP)23.8万kw。操業中。

・ポリプラスチックス 富士市(IPP)4.7万kw。震災の影響なし。

・東京ガス横須賀パワー(IPP)20万kw。東電への供給継続中。

以上から他社受電火力で稼動中と見られる能力は314.4万kw、一方停止中の合計

は共同火力の230万kwプラスその他の78万kwで、308万kwと推定される。残る約

44.9万kwは詳細不明である。したがって現在の他社受電火力の能力は


314.4~359.2万kw。これに水力(揚水を除く)の192.6万kwを加えると、

507~551.8万kwとなる。

これらをまとめると以下の通りとなる。


他社受電出力(単位:1000kw) 2009年度末       現在
  •  水力      一般               1926      1926
  •                 揚水               3725              3050
  •                小計               5651             4976
  •  火力        計                 6673         3144~3592
  •   原子力                             880                  0
  •   新エネ等                              0                  0
  •       計                            13205          8120~8568
  •    (揚水除く計)          (9480)       (5070~5518)

自社能力の3596.5万kwにこの507~551.8万kwを加えた4103.5~4148.3万kw

現状における揚水発電を除いた東電の総供給力と推定される。


(続く)                    110507 上表の現在の揚水の数字が間違っていましたので、訂正しました。
                           110508 、110520新情報を加えて、一部改定しました。

東電供給力の一考察 その1

3月11日(金)の東日本大震災により、東京電力の福島第一、第二原発、そして

6カ所の火力発電所、22ヵ所の水力発電所、8ヵ所の変電所が操業を停止する深

刻な事態となった。このため東電は14日(月)から急遽計画停電の実施に踏み切

った。

この時点でツイッター上では、原発が止まってしまったので計画停電止むなし

という意見から、以前に原発が全てストップした時にも停電しなかったので火

力で十分対応できるはず、といった両極端の主張を初めとして様々な意見が飛

び交った。しかし色々読んでいても、情緒的に捕らえている意見が目立ち、あ

るいは東電 に対する不信感が先に立って、原発の必要性を主張するための策略

ではといった考えも散見された。

そこで筆者は客観的情報とデータに基づいて、何が事実なのか探ってみる必

要があるのではないかと判断した。

すでにその一端は@suginakkuriのアカウントで3月22日から26日までの連続ツイ

ートにより明らかにしてきた。しかし短文のツイートに数字の羅列が続いたた

め、せっかく読んでいただいた方がいたとしても、かなり苦痛で分かりにくか

ったものと思う。

そこで急遽新しいブログを立ち上げ、改めて東電の電力供給力について、今度

は少し先の夏頃までの見通しも含めて考察してみることにした。この一文が今後

引き続き検証していく上での土台となれば幸いである。

ただし、筆者の能力の限界と東電の秘密主義の壁に阻まれ、十分なものになっ

ていないことはあらかじめお断りしておかなければならない。

早速本題に入りたい。


1.東電の自社電力供給能力

2011年3月現在の東電の定格能力は合計約6495万kw。シェアは水力14%、火力60

%、原子力27%で、2009年度とほとんど変わらない。

  • 最大出力千kw    箇所数   2009年度  シェア%  2011年3月   シェア%
  • 水力             160          8,987      13.9%     8,989         13.8%
  • 火力               25          38,189       59.2%        38,645          59.5%
  • 原子力                  3          17,308       26.8%        17,308          26.6%
  • 新エネルギー等      2                 4         0.1%               4            0.1%
  • 合計                  190          64,487      100.0%        64,946        100.0%



この6495万kwをベースに最近の実際の供給能力を試算してみたい。

まず、冒頭で述べたように3月11日の大震災で操業停止に追い込まれた能力を見

てみよう。

  • 福島第一原発  第1~4号機  計281.2万kw    震災で運転中止
  •    同            第5,6号機     計188.4万kw  定期点検中震災  

                 合計469.6万kw

  • 福島第二原発   第1~4号機 合計440万kw      震災で運転中止

        福島原発合計   909.6万kw



火力発電所

  •   広野    第2,4号機   計160万kw      震災で運転中止
  •     常陸那珂  第1号機     100万kw    震災で運転中止 
  •   鹿島    第2,3,5,6号機 計320万kw    震災で運転中止
  •     大井    第2,3号機       70万kw       震災で運転中止
  •   五井    第4号機        26.5万kw   震災で運転中止
  •     東扇島   第1号機      100万kw       震災で運転中止

    火力合計     776.5万kw

水力発電所

  •   福島14発電所            震災で運転中止
  •   栃木4発電所             震災で運転中止
  •   山梨4発電所             震災で運転中止

変電所8カ所              震災で運転中止


このように震災当初は福島原発909.6万kw、火力発電所776.5万kwの計1686.1万

kwの他、水力発電所22箇所、変電所8箇所が停止するという大きな影響が出た。

しかし水力発電所、変電所は15日までには全て復旧した。

一方、火力発電所の復旧状況は以下の通りである。

  • 大井3号機、五井4号機  3月15日までに復旧 (計61.5万kw)
  • 大井2号機               18日までに復旧 (35万kw)
  • 東扇島1号機             25日までに復旧(100万kw)
  • 鹿島3号機             4月6日までに復旧(60万kw)
  • 鹿島2号機                 7日までに復旧(60万kw) 
  • 鹿島5号機                 8日までに復旧(100万kw)
  • 鹿島6号機                20日までに復旧(100万kw)

この結果、合計516.5万kwの火力が復旧し、なお震災により停止中の火力は260

万kwとなり、福島原発停止分とあわせた停止中能力は1169.6万kwとなった。

原発、火力停止分は、当初全能力6495万kwの26%にも及んだが、現在は18%

まで改善した。

なお停止中の火力は以下の通りであるが、被害がかなり甚大であり、早期の復

旧は望めそうもない。

  • 広野火力2号機(60万kw)、4号機(100万kw)
  • 常陸那珂火力1号機(100万kw)
 
次にその他の原発(柏崎刈羽原発)と火力の状況を見てみたい。

柏崎原発(総能力821.2万kw)では現在第1,5,6,7号機が稼動中で、2,3,4号機は

定期検査中であり、停止中3機の合計は110万×3機で330万kw。

火力は定期検査中の能力について東電が詳細を明らかにしていないので、試算

が難しいが、震災分を除く全てが稼動中と仮定すると3864.5万ー震災分260万の

3604.5万kwとなる。ここから今定期検査中がはっきりしている品川1-1号機、横

浜7-1号機、袖ヶ浦1号機(4月末までに復帰予定の報があったがいまだ復帰の報

無し。)の計133万kwと長期計画停止中の横須賀8機計227.4万kwを差し引くと、

3244.1万kwとなる。

さらに東電によると(3/25プレスリリース)7月末の供給力に計370万kwの定期点

検からの復帰分を見込んでいるとしている。ということは全て火力とすれば現

在370万kwの火力が定期点検中と考えられ、上述した定期検査中がはっきりして

いる品川、横浜、袖ヶ浦の計133万kwを除いた237万kwをさらに差し引かねばな

らない。結局火力の現能力は3007.1万kwとなる。

追記:(110520)その後常陸那珂発電所(100万kw)が5月15日に運転を再開した
ので、これを加え、一方震災で被災しなお停止中の広野火力2,4号機以外の
1,3,5号機(計220万kw)も停止している可能性 (おそらく定検中に被災)が高いので、
これを差し引くと、火力の現能力は2887.1万kwとなる。



残るは水力であるが、上の表にあるように2011年の総能力は899万kw。かなりの

能力である。しかし後で詳述するが、これを単純に足すわけにはいけない。な

ぜならこの899万kwのうち680.8万kwは揚力発電で、一般の自流式、貯水池式の

水力は218.2万kwに過ぎない。実に揚水が76%を占めている。後で理由は説明す

るが、当面揚水は除いて供給力を試算することにする。

以上長くなったがもう一度整理すると、現在実際に使える自社能力は

  • 原発(柏崎1,5,6,7号機)        491.2万kw
  • 火力                     2887.1万kw
  • 水力(揚水を除く)            218.2万kw
  • 総計                    3596.5万kw

ということになる。


(続く)                  2011/5/1記    110520追記。