2011年7月7日木曜日

東電需給計画の我流解釈の続編

5月20日に「東電需給計画の我流解釈」と題して、東電の電力供給計画を分析した後、7月1日になって新たな修正計画が発表された。正直東電に付き合うのはうんざりだが、前回のブログで大胆仮説を立て、謎解きを試みた以上、結論を知りたいと思うのが人情である。
と、思ってしぶしぶ分析を始めようと思ったのだが、案の定、やっぱり東電の情報は謎だらけでさっぱり分からん。僅か4行程度の説明で全てを理解せよって、どう考えても無理だろう。もっとも理解させたくないのが東電の本音だろうが。
新聞情報で補足出来るかとネットで検索して見たが、まったく役立たず。やむなく東電の記者会見を見ることにする。
結論から言うと新しい情報もあったが、さらに疑問が深まって、ますます頭がこんがらかるばかり。
最後の頼みの綱は前回の需給計画発表時(5月13日)の東電記者会見だけか。そこに何か情報はないだろうか。岩上安身さんのIWJホームページからこの記者会見のUstreamアーカイブを何とか見つけ出した。昔だったらこんなことは不可能だったろうが、岩上さんたちの努力によって、こうしてカット無しの記者会見が後で見られるのは掛け替えのない、貴重な宝だ。記者クラブメディアではこうは行かない。(また横道にそれた。)

さていい加減で分析に入るが、まずはこれまで東電が発表した供給力計画の数字を改めてまとめてみよう。⑤は今回(7月1日)の修正計画の数字である。前回同様プレスリリースは略してPRと表記する。

①3/24現在供給力      3650万kw
②3/25PR増強後  7月末 4650万kw(+1000万kw)
③4/15PR増強後  7月末 5200万kw(+550万kw)8月末 5070万kw(+1420万kw)
④5/13PR増強後  7月末 5520万kw(+320万kw)8月末 5620万kw(+550万kw)
⑤7/1PR修正後    7月末 5680万kw (+160万kw) 8月末  5560万kw(-60万kw)

合計増強分は7月末で2030万kw、8月末で1910万kwとなる。

①から④については前回のブログで説明してあるので、さっそく⑤の中身の説明に入ろう。

東電PRの需給の数字と修正部分の抜粋は次の通り。

            参考5/13お知らせ   
     7月末     8月末     7月末     8月末
需要          5500      5500      5500      5500
供給力      5680      5560      5520      5620
予備力        180       60          20        120

<追加供給力(5月13日お知らせ以降の変更点)>
(1) 震災停止・定期点検等からの復帰【7月+220万kW】
広野火力1,2,4号機の復旧工程の前倒しを織り込み
(2) 自家発余剰の購入増 等【+40万kW】
(3) 電力融通の減【▲100万kW】

※揚水発電については、本見通しでは650万kWで織り込んでおります。需給が厳しい状況においては、その時点における上ダムの貯水量や需要動向をふまえ、揚水の発電量について詳細に精査したうえで反映することといたします。

         供給力          最大電力
7/2~8           5120            4180
  9~15          5350            5050
 16~22          5610            5500
 23~29          5670            5500
30~8/5         5680            5500
  6~12          5650            5500
 13~19          5660            5500
 20~26          5590            5500
27~9/3          5550            5500
※最大電力は、各週の最大需要想定値、供給力は各週の平均値を記載

以上が東電PRの骨子である。

まずは供給力の説明の(1)から始めよう。

7月末の+220万kwは広野火力の1、2、4号機(各60万、60万、100万kw)の前倒し分だとしている。
前回5/13PRで8月末の純増分としていた220万kwを7月末分に繰り上げたわけである。前回ブログで220万kwの内訳はおそらく広野火力4号機と1、2、5号機(各60万kw)のうちの2機であろうと書いたのでこれは正しかったことが証明された。
7月末分の60万kwは、すでに6/15に前倒して復帰した広野火力第5号機(60万kw)であることも明らかになった。ただしこの復帰については私の知る限り、東電は発表しておらず、産経(6/16)だけがひっそりと明らかにしただけであった。前にも書いた通り、震災時に運転していた2、4号機以外の、定期検査中に被災した1、3、5号機については一切報道しないのが、東電のルール(?)だからか。広野火力の一部が震災後初めて復帰したというのはかなりのニュースだと思うのだが、きっと私の感覚がおかしいのであろう。

ここまでは問題なさそうであるが、さらに分からないのは前回ブログで大問題になった第3号機についてである。これは7/1の記者会見でも何も触れておらず、新聞にも載っていないので、お手上げで、推理小説の謎解きは迷宮入りかと思われた。

そこで最初に書いたように、最後の頼みと思い、5/13の記者会見を見てみようと思いついた。当時は仕事ならいざ知らず、趣味(?)で東電の記者会見など見たくもないし、どうせ大した追加情報はないであろうと思っていたのが災いした。やはり一銭にならないとしても中途半端はいけない。IWJのお陰をもってこれを見ることが出来たわけであるが、我慢して1時間以上見ていてついにある記者が3号機について質問した。がんばった甲斐があった。

聞いて驚いた。何と、私の大胆推理の通り、3号機分は3/25PRで発表した「震災による停止からの復旧 【760万kW】」に入っているというのである。さらに、そうだとしても、なぜ3号機だけをそこに入れたのか不思議であったが、それについても一応の答えがあった。「比較的被害が軽微であった広野3号機の100万kwを織り込むことを考えたが、広野は被災した福島原発第1に近いため作業が遅れることも考慮して代替の100万kwガスタービンも用意した。いずれにしろ100万kwを760万kwに含めたが、その後広野の復帰メドが付いたので、ガスタービンではなく、3号機分がここに含まれることになった。」というのである。

びっくりした。なんともあっさり謎解きが出来てしまったではないか。しかも正解とは。というより、最初からこの会見を見ていれば、前回のつまらないブログを書く必要もなかったかもしれない。まあ、ちょっとした推理を楽しめたんだからいいとするか。暇な人以外は読むなと断っておいて良かった。まじめに読んだ人がいたら、お叱りを受ける所であった。

さてついでに7/1記者会見で明らかにされた追加情報を列記すると、次の通り。

広野火力 2号機(7月上旬再稼動)3、4号機(7月中旬再稼動) (1号機については7月中という以外述べていない。)
横須賀火力 3号機(すでに再稼動)4号機(7月上旬再稼動)1、2号機は7月末までに再稼動。


総能力の内訳    7月末       8月末
一般水力        310万kw            310万kw
     揚水         650万       650万
火力           4240万             4310万
原子力          490万       250万
融通分           -10万         40万
計             5680万              5560万

揚水 平均650万kw折込む。設備能力としては他社分も含めて1050万kwあるが、故障等で使えないものを除くと設備容量としては890万kw。ロードカーブ,水量の状況などから+100万程度(あるいは最大800万kwぐらいまで)は追加可能か。650万kwには電源開発の沼原発電所(栃木県。67.5万kw)と東電の塩原(90万kw)は含まれていない。
火力の7月から8月の純増分70万kwは緊急ガスタービン増強による。他社では常磐共同火力の8号機(60万kw、東電シェア49.11%)が7月中旬に再稼動。
原子力の7月から8月の減少分は柏崎刈羽1号機(8/6)、7号機(8/23)の定期点検入りによる。
融通分7月末の内訳は柏崎刈羽1号機の東北電力権利分が-50万kw、北海道からの融通分が30万kw、北陸から10万kw、で計-10万kw。8月末は東北電分がなくなるので、+40万kw。

さらに今冬と来夏の供給力についても若干触れたので、紹介しよう。

今冬 8月に定検に入る柏崎刈羽原子力発電所1号機、7号機が今冬までに再開できれば、安定供給可能。出来なければ厳しい。
来夏 復旧工事中の相馬共同火力1,2号機(各100万kw、東電50%)と常磐共同火力7号機(25万kw、東電49.11%)が復旧工事中。千葉ガスタービンの追加も検討。川崎2-1号機、神流川2号(揚水)についても来夏までに間に合うよう工事を進めている。

次に(2)の自家発余剰の購入増 等【+40万kW】に移る。

自家発電についても7/1記者会見で追加情報の提供があった。現在全国の自家発電能力は6400万kwで、うち東電管内では1600万kw。これには共同火力、IPP、PPSを含み、これらで約半分を占める。自家発余剰買取分は今回の+40万kwを含み計160万kwになる。これは火力能力の内数。160万kwは現状では目一杯で、供給制限が掛かっている状況ではこれ以上は難しい。

(3)電力融通の減【▲100万kW】は浜岡原発停止で関西の60サイクル圏からの供給が見込めなくなったことによる。今回は乗せていないが、マックスの100万kwまで期待して交渉を続けるとのこと。

この他、東電は東北電力に最大140万kwの電力融通を行いたいとしているが、これはあくまでも東電自身の供給力に余裕があることが前提となることを強調している。

以上が今回7月1日に東電が発表した内容と同日の記者会見から供給力について触れた主要点である。

東電は今のところこの他には大きな供給力増強に繋がる計画はなく、今夏はこの能力で対応せざるをえないとの考えである。となると8月は東電の計画ではかなり供給逼迫ということになるが、私の見るところ、おそらく東電は揚水発電の沼原と塩原(既述。計160万kw弱。)を柏崎刈羽原発の減少分240万kw補填の隠し玉として考えているのであろう。

さらに今冬については「柏崎刈羽の1号機、7号機の再稼動が認められないとかなり厳しい状況となる。」と早くも危機を煽り、原発依存の必要性を強調している。

しかし節電、計画停電といって消費者を脅すということは、逆に言えば、供給義務を果たせないと白状したことを意味する。それならば、しっかり詳細データを開示して、説明の上、協力をお願いするのが筋ではないのか。情報を一手に握っていて、管理は全部お任せをでは完全にお上思想としか思えない。

いずれにせよ、今夏の供給問題の大きな鍵を握っているのが揚水発電であることは間違いない。揚水発電は貯水能力、実際の貯水量、流水量、天候、需要予測、夜間の余剰電力量予測、それらを総合して短期にマネージメントしていかなければならない。しかも今回ほど大規模に運用した経験はないはず。かなり高度な管理能力を要求される。したがってトータルした数字に余裕があるように見えても、上手くいくかどうかは東電がどれだけしっかりした管理体制を執れるかどうかに掛かっている。福島原発の管理状況を見ているとはなはだ心もとないが、原子力部門以外の東電の真価を発揮できる正念場でもある。しっかり頼みます。我々としては当面、これ以上の地震、津波、事故、故障、ミスが起きないことを祈るしかあるまい。

(おわり)

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